本研究は、細胞老化に伴って発生する増殖因子シグナリングの減弱メカニズムにRNAエディティング(編集)が関与するかどうかを分子細胞生物学的に解析することを目的とした。これまでに、若年細胞と老化細胞では、外来の増殖因子刺激に伴う細胞内情報伝達系の活性化に相違がみられることを明らがにしてきた。その結果、老化細胞においては、受容体からエフェクター分子、例えばホスパリバーセC(PLCγ1)への情報伝達が効率よく行われないこと、若年細胞での情報伝達系とは異なる分子メカニズムが存在することが示唆された。老化細胞における増殖因子受容体の情報伝達減弱メカニズムを理解するための作業仮説として、セロトニン受容体等で明らかにされているようなRNAエディティング(編集)が考えられた。すなわちゲノムDNAは若年細胞のままで変化はないが、転写産物中(mRNA)のアデニンがエディティング酵素(アデノシンデアミナーゼ等)によりイノシンやグアニンへ置換される結果、アミノ酸一次構造に変異が生じ、結果として分子間相互作用に影響を与えるという可能性である。 本研究では、特にこのエディティング機能による分子構造の変化に注目して、増殖因子受容体としてPDGF受容体、エフェクター分子としてPLCγ1を取り上げ、老化細胞において、それらの蛋白質をコードするmRNAに一次構造上の変化が発生しているか否かを調べた。現在PDGF受容体とPLCγ1についてクローニングを行い、ヒト老化細胞由来cDNAクローンをそれぞれ複数個得た後、DNAシークエンスを進行中である。情報伝達系の不活性化が、全く新しい細胞老化に伴うRNAエディティング機能の変化によるものかどうかを解明できると期待される。本研究により、細胞老化とRNAエディティングとの関連を明らかにできれば学術的な意義も大きい。
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