体細胞におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)に対する酸化的損傷と、それに起因するmtDNA変異の蓄積が、加齢における重要な因子として注目されている。それぞれの個体のもつmtDNA多型が、活性酸素種に対する抵抗性、疾患に対する感受性、あるいは個体の寿命などに影響を与えていると考えられる。本研究の目的は、百寿者において見いだされた長寿に関連するmtDNA多型との比較によって、mtDNA多型がアルツハイマー病・パーキンソン病などの加齢に伴って進行する神経変性疾患の病態にどのような影響を与えているかを解明することにある。また、動脈硬化における脂質過酸化反応、発癌過程における活性酸素種による核DNAの酸化的損傷などが注目されているので、mtDNA型の相違によってミトコンドリアからラジカル産生量が異なるか、さらに動脈硬化あるいは発癌にいたる危険率が異なるかについて検証することを目指した。多数例の遺伝子型を決定するために簡便な発色分析法を開発し、1型および2型糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳梗塞・脳出血の患者におけるA型およびC型mtDNAの頻度を解析した。その結果、1型糖尿病において糖尿病性腎症を発症した患者にC型mtDNAの頻度が高いことを明らかにした。また心筋梗塞に関して、A型mtDNAを有する個体は喫煙により発症年齢が顕著に低下すること、C型mtDNAを有する個体は高脂血症の合併により発症年齢が顕著に低下することが明らかになった。A型およびC型の間の機能的の相違を明らかにするために、胎盤血から血小板を単離し、mtDNAを欠く細胞と血小板とを融合させ、A型とC型のmtDNAを有する不死化細胞株を確立した。これらの細胞株を用いて、高酸素条件下における、過酸化物の細胞内発生量、ミトコンドリア内膜のポテンシャルの低下傾向、細胞死の誘導され易さの相違を明らかにする予定である。
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