シナプス形成の最終段階及びそれ以降に発現している接着分子の減少がシナプスの維持を困難にし、老化に伴い神経機能が衰退するのではないかとの観点から、私たちは出生後に発現を始める神経接着分子コンタクチンに注目し、ラットの老化脳の海馬のCA1領域で顕著に減少していることを見い出した。この分子が、NrCAM分子とシスに結合し細胞内への情報伝達を仲介しているとの報告がされたことから、本研究では、NrCAMの発現とアイソフォームについて検討した。ウエスタン・ブロット法で、NrCAM蛋白質は、脳と脊髄のみで発現しその他の臓器では認められなかった。生後35日齢の脳は、ほぼ全領域で発現が認められ、免疫組織染色の結果と一致していた。NrCAMは、発達の過程において135kDaと130kDaの非常に近接して2本のバンドが確認された。出生直後から生後10日くらいまでは135kDaのバンドだけが検出されるが、生後22日以降から成体になるまで130kDaと135kDaのバンドが認められた。一方、私達がクローニングしたNrCAMのcDNAは既に報告されているNrCAM22と比較してN末端側で19アミノ酸残基多いスプライシング・アイソフォームであった。そこで、ウエスタンブロットで検出された発現時期の異なる2本のバンドがこれらのアイソフォームに対応しているかどうかを調べるためにこの領域(AE19)を挟むプライマーを用いてRT-PCR法を行ったところ、AE19領域を含まないバンドの出現は、生後6日以降であり、ウエスタン・ブロット法の結果と類似していた。これらのことから、NrCAMの135kDaと130kDaの分子は機能の異なるアイソフォームとして脳に存在し、免疫沈降の結果から特に海馬ではコンタクチンとの相互作用を介した神経機能の衰退に深く関わっていることを示唆した。
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