研究概要 |
本論文では,木質材料の優れた感性特性を積極的に活用することを目的として,視覚と嗅覚の二つの視点からその感性特性を総合的に評価することを試みた。そのため,木質材料のニオイを好ましい視点とそうでない視点から捉えた評価を行った。具体的には,ニオイを好ましい視点から捉えた場合として,自発脳波と気分評価尺度(POMS)を指標として,針葉樹材が有する固有のニオイの生理心理的作用について検討を行った。さらに,視覚情報の有無を考慮した上で,材料表面およびニオイの官能評価実験によって,空間内での実際的な木質材料の利用方法について検討した。これに対して,ニオイを好ましくない視点から捉えた場合は,室内空気汚染物質の一つであるホルムアルデヒドに着目し,合板から揮発するホルムアルデヒド放散量の低減方法について検討した。ここでは,製造直後の合板に[ユリア・フェノール・アンモニア・カテキン・タンニン]の5種類の化学物質を減圧注入し,これらの物質によるホルムアルデヒド低減効果を放散量測定と臭気官能評価実験によって検討した。以上の検討によって得られた知見は以下のように要約できる。(1)自発脳波には,ニオイの有無による有意な変化が認められなかった。(2)針葉樹林のニオイには人の疲労感や不安感を低減させ,活気を増大させる傾向がある。(3)木質材料のニオイの認容性評価は,視覚情報を加えることによって増大した。(4)ユリアおよびアンモニア処理によってホルムアルデヒド放散量が大きく低減した。(5)カテキン処理により,ホルムアルデヒド放散量が低減するだけでなく,その心理的快適性が増大することが示唆された。
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