座り心地と各人の肉体的特性との関係を明らかにするため、以下の計測手法を開発した。 1.30mm感覚で櫛状に並べた36本び直線型ポテンショメータで、頭部から臀部までの背面形状を計測する装置を開発した。押し込みによる姿勢変化は接触を2段階に分けることで回避できる。また肩甲部などを含む最凸形状と正中形状とは相関が高く、胸椎部の形状は姿勢によらず一定で、個体差が大きい。 2.腰部をコルセットで固定して体幹を徐々に起こしたときの抵抗力とコルセットをはずして胸郭部のみを起こしたときの抵抗力から、股関節と腰椎それぞれの屈曲柔軟性を求める方法を開発した。個体差が大きくなる膝屈曲30°で体幹を垂直に起こしたときの抵抗モーションを屈曲柔軟性と定義した。腰椎に比較して股関節が柔軟な者は深く着座して腰部が硬いクッションを好み、逆の場合は浅く座って胸郭部が柔らかいクッションを好む傾向がある。 3.長時間着座中の姿勢変化を簡便に計測するために、ビデオ画像の人物位置に輝度分布情報を持つ身体モデルを半自動的に重ね合わせ、着座姿勢を実用精度内で計測する画像処理手法を開発した。 これらの手法を用いて身体特性と自然な着座位置を計測し、以下の結果を得た。 4.着座姿勢は接触面の圧迫感や腹圧などの生体内負荷に大きく影響する座り心地の基本要因である。この着座姿勢の基準となる座骨位置は、腰椎に対する股関節の屈曲柔軟性と胸郭背面の後湾比(突出量/胸郭長さ)から定まり、座骨位置から骨盤角度が、また、座骨位置と胸郭背面後湾比から胸郭角度が、さらに胸郭と骨盤の相対角度から腰椎湾曲が決定される。それぞれの推定式から得た姿勢は、実計測姿勢と計測誤差の範囲内で一致した。 以上より、胸郭背面形状と股関節の柔軟性が椅子の座り心地の基本条件を決定する肉体的要因であることが分かった。
|