東京大学海洋研究所研究船淡青丸航海において、日本海西部海域の深海性底生生物および底魚類の採集をおこなった。その中で最も優占する種であるノロゲンゲについて、日本海東部・中部海域で採集された個体も含め、ミトコンドリアDNA・Dループ領域の塩基配列に基づき集団の遺伝的構造を解析したところ、同集団は遺伝的に異なる2つの個体群から構成されていることが明らかになった。ひとつの個体群が日本海全域に分布し、東部で高い遺伝的多様性を示すのに対し、もうひとつの個体群は、山口県沖水深400m付近を中心として日本海西部・中部の水深1000m以浅の海域に分布しており、東にいくほど、分布限界深度が浅くなっていた。最終氷期の海洋環境悪化期に前者は日本海東部で、後者は対馬海峡付近の浅海域に隔離され、現在再び分布域の拡大が進行しつつあるものと考えられる。今後集団遺伝学の手法により、個体群の遺伝的分化過程の詳細な再現を試みるとともに、太平洋産の近縁種との種分化過程の解析をおこなう予定である。 また日本海および太平洋沿岸の代表として、それぞれ新潟県粟島と岩手県大槌において、潮間帯、潮下帯の底生生物について両海域に共通して出現する属・種を中心に採集した。そのうちイシダタミ類について、小笠原諸島で採集された近縁種も含め遺伝的集団構造の比較研究を開始した。来年度以降は、研究船白鳳丸航海においてプランクトンサンプルの採集をおこなうとともに、多様な種の集団構造について解析し、種の生活史特性と集団構造上の特性との関係を比較・検討する。
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