Hox遺伝子クラスターは左右相称動物の前後軸に沿った形つくりを支配している遺伝子群である。棘皮動物は左右相称動物に属しているが、頭部構造を持たない五放射相称という非常に特殊な体制をとっている。私は、発生過程とくにウニ原基でのHox遺伝子の発現様式から、棘皮動物が左右相称から放射相称になった進化の道筋を推測できるのではないかと考えている。ヨツアナカシパンは直接発生型のウニで、餌をとらずに三日で変態するので、この研究に最適な材料である。最初にHox遺伝子のホメオドメインでよく保存されている第一と第三ヘリックスに対する縮重プライマーを用いたgenomic PCRとRT-PCRによってヨツアナカシパンのHox-type遺伝子を増幅・単離した。その結果、13種のHox-type遺伝子(Pj1-13)を同定した。それらはすべてRT-PCRで検出されたので、胚で発現していることを示している。これまでに報告されているウニのHox遺伝子の配列とPj1-13の配列を比較した結果、(1)既知の10個のHox遺伝子のすべてに対応するヨツアナカシパンの遺伝子が単離できたこと、(2)Pj8、Pj9、Pj13は新規のHox-type遺伝子らしいことが明らかになった。データベースの検索の結果、(1)Pj8はこれまでウニでは報告のないEvx-type遺伝子であること、(2)Pj9はナメクジウオのParaHox遺伝子であるXloxとアミノ酸配列で完全に一致すること、(3)Pj13はウニでは新規の後方Hox遺伝子であることが示された。以上の結果は、ヨツアナカシパンは頭部を欠く放射相称でありながら、左右の相称の脊椎動物と基本的に同じ構造をもつHox遺伝子クラスターを保持していることを示している。
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