研究概要 |
従来,伊豆諸島に分布するとされていたオカダトカゲが伊豆半島に分布することは確認されたが,その分布の実体ははっきりしていなかった.今年度の調査では,まず,このオカダトカゲ集団とニホントカゲ集団の分布の境界域を明らかにするため,静岡県から神奈川県にかけて採集調査を行った.形態的には,この2集団は,後鼻板の形状でほぼ識別が可能である.ニホントカゲ集団では,後鼻板は小さく,前頬板は上唇板に接するが,オカダトカゲ集団では大部分の個体が,後鼻板が大きく,小さな前頬板は上唇板に接触しない.今年度の調査では,オカダトカゲ集団は西は富士川の東岸まで分布しており,富士川を渡るとニホントカゲと入れ替わることがわかった.一方,東側は小田原でオカダトカゲの分布が確認されており,鎌倉ではニホントカゲが採集されている.おそらく,酒匂川か相模川が東の分布境界になっているものと思われる.アロザイムの解析では小田原で交雑個体が1個体確認された.このような分布様式と遺伝的な差異は,この種が独立種であることを示唆しており,分類学的な扱いの変更の必要も生じてきた.というのは,ニホントカゲEumeces latiscutatus(Hallowell,1861)の基準産地は伊豆半島の下田であり,オカダトカゲE.okadae Steineger,1907の基準産地は伊豆諸島の三宅島である.2種が同種となれば, 「オカダトカゲ} にはEumeces latiscutatus(Hallowell,1861)を,本土の他地域に分布する「ニホントカゲ」集団に対しては,長崎を基準産地として記載されたEumeces japonicus Peters,1864を当てるのが適当である.行動学的な実験では,この2種の間で繁殖行動に異常が見られたが,今年度の春は異常に温暖で繁殖時期が早く始まり,実験が繁殖期後期にずれ込み,コントロールにも異常が見られたため,さらに追試が必要である.
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