研究概要 |
イネ科の一年生草本でコムギの近縁野生種である,エギロプス属シトプシス節(Aegilops section Sitopsis)の5種を対象に,自然集団での遺伝的多様性を遺伝子および染色体構造の両面から明らかにすることを目的とした。これらは地中海の東岸地域に分布するが,使用したサンプルはイスラエルおよびエジプトの自生地から収集したものである。 1)染色体構造では,適切な手法を選択するために雑種の染色体対合・C-バンディング・数種のDNAプローブを用いたFISHなどの予備実験をおこなったが,従来の知見と比較して特に新しい情報は得られなかった。 2)シトプシス節各種でのアロザイム変異の量は,これまでに研究された一年生植物での変異量とほぼ同じであることが明らかになった。 3)今回対象としたAe.speltoides,Ae.longissima,Ae.sharonensis,Ae.searsii,Ae.bicornisのうち,Ae.longissima以外は地理的または生態的な分布域が狭い範囲に限られていた。一方Ae.longissimaはイスラエルの海岸部から内陸部にかけて生態的にも広い分布を示し,また海岸部で変異が多いが内陸ではほとんど無いという差異が見られた。現地での観察結果と気候条件などから,内陸部での変異の少なさは生育条件の厳しさと対応していると考えられる。 4)以上の結果から,遺伝資源としてこれらのコムギ近縁植物の収集を行なう場合,地理的な分布とともにその生態的環境についても注意を払うことが重要であることが明らかになった。
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