研究概要 |
海岸や河口域にすむ動物の行動には、潮の干満に同調した周期性(潮汐リズム)が見られる。潮汐リズムの機構については多くの研究がなされてきたが、依然として不明な点が多い。潮汐リズムは海洋から河口域にかけてのどの範囲で見られるのか、また陸上に住む生物に見られる概日リズムの測時機構とどこが違うのか、という非常に重要な問題すらほとんど解析がなされていない。本研究は,この2つの問題を解決することを目的とした。まず、潮汐リズムの見られる範囲を特定するために、河口域から潮下帯にいたる広い範囲で、小型甲殻類の遊泳活動やウミユスリカの羽化を連続的にモニターした。その結果、潮汐サイクルの影響が最も強く現れる環境では、動物の行動は潮汐サイクルに非常によく同調して,12.5時間の周期性が見られることが多いが、そのような環境から離れるにつれて、リズムの周期は24.5時間から24時間に近くなることがわかった。また、潮汐の影響は日本列島の沿岸でバリエーションがあり、地域ごとにすむ種類も異なる。従って、潮汐リズムのパターンも地域による違いが見られると予想し、4箇所(北海道、紀伊半島、瀬戸内海、南西諸島)の亜潮間帯で野外調査を行った。その結果、潮汐への同調性、夜行性の強さに顕著な違いが見られることがわかった。また、亜潮間帯にすむ動物の示す周期性は、潮汐サイクルに明らかに同調しているパターンから、昼夜リズムとまったく区別できないパターンまで見られた。一方、多くの実験的研究からも、潮汐リズムの主な同調因子は、潮汐サイクルではなく昼夜サイクルであること、測時機構も概日リズムと同様なメカニズムで説明できることを明らかにした。これらの知見に基づき、潮汐リズムは、概日リズムと同じ測時系を持ち、少なくとも2種類の同調因子によって位相調節のなされる周期性であることが示された。言い換えれば、概日リズムの起源は潮汐リズムにあるのではないか、と考えられる。
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