日本産ウマ(木曽馬)、サウジアラビア産ハイラックス、ボビリア産カピバラ、ならびにザンビア産カバの消化管内容に見られた繊毛虫相を明らかにした。木曽馬からは7科23属50種を同定したが、木曽馬に固有の種は認められなかった。日本在来馬と欧米から輸入されたウマの繊毛虫構成が類似していたことは、宿主が世界各地に拡散する以前から安定した構成を有していたことを示唆しているものと考えられた。ハイラックスからは体長2mmを越える巨大な繊毛虫が検出された。この虫体の光顕切片および割断走査電顕像では極めて特異な内部構造が観察された。これらの構造は類似した外形をもつ反芻動物胃内のIsotricha属などとは著しく異なっており、系統的にかなり距離をもつものと思われた。カピバラの大腸内繊毛虫については、著者らが新たに開発したピリジンー炭酸銀およびプロタルゴール変法を用いた鍍銀法を用いて検査を行った結果、検出された4科13属24種のうち11種が新種であり、既知種についても大幅な分類の変更を要することが明らかとなった。これらの種のほとんどはカピバラに固有のものであったが、属レベルではウマやサイなど、他の大型後腸発酵性草食動物に見られるものと共通していた。このことから、食性の類似性からカピバラ大腸にウマの大腸内繊毛虫に類似した種の定着が起こり、その後種レベルで固有性を有するまでに分化したものであると考えられた。カバは後腸発酵性動物ではなく、前腸発酵性動物であるが、その胃内には後腸発酵性動物に見られるMonoposthium属が検出された。これらの所見から、草食動物の系統と、その消化管内に見られる繊毛虫相との間に密接な共進化が存在することが示唆された。
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