研究概要 |
急速に発展しつつある情報通信社会においては,小型軽量かつ高速大容量のマルチメディア携帯情報端末が必需品となる.しかしながら,これらのハイテク機器は電磁ノイズに対して極めて脆く,その誤動作の多くは静電気放電(Electrostatic discharge:ESD)で発生する過渡電磁界によって引き起こされている.特に,金属パイプ椅子,搬送ロボットなどの帯電金属体のESDは強い電磁界を発生することが知られており,例えば,米国のWilsonとMaは,金属平板近くで起こした金属球間のESDから1.5m離れた場所において150V/mという強い電界を測定している.このようなESDによる強電磁界の発生機構を解明するにはESD電流を定量的に把握することが不可欠であるが,放電経路を流れる電流の測定は一般には極めて困難である. 本研究では,帯電金属体の浮遊容量と放電ギャップ長並びに放電電圧からESD電流を推定する申請者提案の計算手法の妥当性を検証し,ESDのシミュレーションコード開発とESD電磁障害策を確立する.今年度においては,(1)帯電金属体の火花放電がつくる過渡電磁界の時間領域差分(Finite-difference time-domain:FDTD)法による数値解析から発生電磁界の伝播状況,距離特性,金属体形状などの依存性を明らかにし,(2)帯電金属体形状が発生電磁界に及ぼす影響を事前予測するためのFDTD法に基づく数値コードの開発を目的とした. 結果の概要はつぎのとおりである.金属平板上における金属球体間の火花放電を間接ESDの数値解析の対象モデルとした.過渡電磁界のFD-TD法による数値アルゴリズムを構築し,金属平板に対する放電経路の方向,球体サイズが電磁界分布や伝播状況に及ぼす影響を現有ワークステーションと購入パーソナルコンピュータとで可視化し得るプログラムを開発した.このシステムによるシミュレーションの結果,金属体の存在がそのサイズに応じて界レベルを増大させることが判明し,同知見の妥当性をつぎのように検証した.金属球体面が同電位を保つ条件をイメージ電荷で満たし,同電荷対のダイポールモデルによる電磁界を重ね合わせることで発生電磁界を求めたところ,発生磁界の計算値はFDTD法による計算結果と大略一致し,FDTD法で得られた上述の知見の妥当性が確認できた.つぎに,金属平板上で金属球体間の火花実験を行い,発生電界を市販のESD検出器で観測距離との関係において検出頻度を統計的に測定した結果,50%検出距離は金属球体サイズを増加させるほど延びることが確認できた.現在,火花実験で発生磁界波形を購入の広帯域プリアンプと現有のディジタルオシロスコープとで測定を行い,シミュレーショシ結果との対照を行っている.この実験を次年度も引き続き行う一方,ESD電磁障害の低減策を目的としたフェライトコア装着金属体間ESDの界レベル低減効果の解明を目指す.
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