研究概要 |
近年の半導体技術の飛躍的な進歩に伴い計算機の小型・高速化が進み,その性能は著しく向上した半面,集積回路の高密度・低圧化で電磁雑音に対する機器耐性が大幅に劣化し,問題となっている.特に,身近に起こる静電気放電(Electrostatic Discharge:ESD)で生ずる過渡的な電磁雑音はマイクロ波帯にも及ぶ広帯域の周波数スペクトルを含むとされ,機器誤動作の大きな要因の一つとされている.この種の電磁障害については,低電圧ESDで生ずる過渡的な電磁界のほうが高電圧ESDのそれよりもダメージが大きいといった奇妙な現象が関連業界において経験的に知られており,これまでにもESDによる発生電磁界に関する種種の解析的研究が内外においてなされてきた.しかしながら,いずれの研究報告もESD電流の実測波形やモデル波形を前提としており,前述したESDの特有現象の解明に繋がるものではない. 本研究の申請者は,点波源としたESDによる発生電磁界を,Rompe-Weizelの火花抵抗則から誘導される火花電流のダイポールモデルで解析し,界の距離依存性,放電ギャプ長依存性を既に解明した.本研究の目的は,この成果に基づき帯電金属体によるESD界のシミュレーションコードの開発とESD電磁障害策の確立にある. 昨年度は,金属球体間の火花放電による発生磁界を,前述の火花電流を波源とした有限差分時間領域法(Finite-Difference Time-Domain: FDTD)で解析し,金属体の存在が界レベルを増大させることを明らかにした.しかしながら,同解析法では放電開始前の静電界は計算できず,それ故に帯電金属体によるESD界の全容を把握することは困難であった. 今年度においては,火花電圧を励振源とするFDTD数値解析アルゴリズムを開発し,金属球体間の火花放電による発生電磁界を解析、数値結果を火花電流を波源としたそれと比較検討した.その結果,電界波形は,火花電流を波源とした解析法では静電界が計算されないが,火花電圧を波源とした場合には金属球体面を同電位とするイメージ電荷対による解析結果とほぼ一致し,静電界の計算が可能であることがわかった.一方,金属球間の火花放電に伴う磁界波形を1.5GHzの広帯域ディジタルオシロスコープで観測し,それが火花電圧を波源とした計算波形にほぼ一致すること,イメージ電荷対による解析結果とは球体サイズが大きい場合には一致しないこと、などが確認できた. 現在,任意形状の帯電金属体によるESD界に適用可能なFDTD解析用アルゴリズムを構築する一方,ESD電磁障害の低減策を目的としたフェライトコア装着金属体間ESDの界レベル低減効果をFDTDシュミレーションと火花実験の両側面から調べている.
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