高レベル実験用ELF装置の製作については、周波数50Hz、最大出力400mTの可変磁石を用いた。この磁石の磁場空間に細胞培養可能な培養器を内蔵した。実験用低レベルELF装置の製作については、可変で最大出力5mTのヘルムホルツコイルを用いた。 1.ヒト由来培養樹立細胞(Saos-2)を用いた。突然変異誘発を検索する遺伝子座として、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子を選んだ。無処理ならびに400mTのELF曝露により出現した6-チアグアニン(6-TG)抵抗性細胞に関して、各クローンからmRNAを取り、RT-PCR法によりHPRTのcDNAを得て、シークエンス(塩基配列分析)を行った。突然変異のスペクトラムを解析した結果、塩基置換、部分欠失(スプライシングエラーを含む)、完全欠失ならびに挿入のすべてにおいて、擬曝露ならびにELF曝露ともに差は見られず、ELF特有の突然変異は観察されなかった。 2.核受容体スーパーファミリーで転写因子の1つと考えられているNOR-1(neuron derived orphan receptor 1)遺伝子に注目し、電磁場影響を検討した。400mT磁場曝露によりNOR-1の遺伝子発現は約6時間を最大として一過性に増大した。400mT磁場曝露と刺激剤(フォルスコリン)の併用によりNOR-1遺伝子発現はさらに増大した。また、PKCの阻害剤処理により、400mT磁場の遺伝子発現誘発効果は抑制された。これらの結果は、400mTという超強力な磁場が細胞のシグナル伝達を刺激し、NOR-1遺伝子の発現を増大させていることを示唆している。しかしながら、5mTで行った場合、鋭敏なNOR-1遺伝子でも全く磁場に対する応答を示さなかった。つまり、磁場のNOR-1遺伝子発現誘発効果は少なくともそのしきい値は5mTまたはそれ以上の磁束密度であると結論づけることができる。
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