ウシ精子は、非常に偏平な頭部と長い尾部からできている。その運動を、グルタルアルデヒド固定によって止めた。電動水平定常磁場装置にて、最高1.7テスラの定常磁場を発生させた。透過光測定実験では、試料セルにレーザー光を導入し、透過光をフォトダイオードにて検出して、いろいろな磁場強度での濁度変化を測定した。磁場内顕微鏡実験では、ビデオ撮影の静止画像から形態的観察を行い、精子の配向像を得た。精子は磁場に対して垂直方向に配向した。さらにその偏平な頭部は磁場の方向に対して垂直に配向した。また、透過光測定実験の結果、ウシ精子の配向度は磁場強度が上がるにつれてS字状に大きくなった。 赤血球と比較した時、ウシ精子の磁場配向の特徴の一つは、その方向にある。赤血球は生のままの場合、細胞膜の脂質二重層と膜貫通タンパク質の反磁性磁気異方性のために、その円盤面を磁場に平行に配向する。この時、ヘモグロビンは影響しない。一方、固定した赤血球はその円盤面を磁場に垂直に向ける。これには、生体膜の内側に結合したわずかのメトヘモグロゼンの非常に強い常磁性磁気異方性が関与していると考えられる。これらの点から、精子は生の赤血球と同じ方向に配向することが予想されたが、結果は逆であった。ウシ精子の磁場配向のらう一つの特徴は異方的帯磁率の大きさ、つまりその配向の強さにある。ウシ精子は0.1Tの磁場強度ですでに影響を受け始め、1Tでほぼ100%配向する。その強さは生の赤血球の100倍以上になる。頭部のDNAにそう配向させるだけの非常に大きな磁気異方性があると考えられる。
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