研究概要 |
電離放射線の生体への影響は現在詳しく解析され、国際的な安全基準が確立されている。しかし非電離放射線(NIR)、なかでも磁場の影響については、近年その生体への影響が問題になってきているが、データが乏しく解析されず安全基準が確立されていない。そこで我々は0.5Tの交流磁場及び直流磁場を用いて、多くの変異株が分離されている出芽酵母S.cerevisiae及びヒメゾウリムシP.tetraureliaを選び、これらの野生株を用いて磁場による培殖への影響と突然変異率の変化により、磁場の生体への影響を細胞レベルでの解析を試みた。 1. 増殖率:0.5T交流磁場、0.5T直流磁場、対照(磁場非照射)の各条件で、30℃、24時間培養した出芽酵母S288c株のコロニーの直径の差により、磁場による増殖効果を調べた。ヒメゾウリムシでも差はみられなかった。 2. 突然変異率:アデニン栄養要求株であるW303-1a株をfroggerを用いてSD寒天培地に植え、紫外線(UV;波長:254nm,線量(60J/mm)照射あるいは非照射後、0.5T交流磁場、対照(磁場非照射)の各条件で、30℃、120時間培養した。このときの復帰突然変異率の変化を調べた。 【結果】 1. 交流磁場、直流磁場ともに対照に比べ、有意な差はみられていない。 2. UVにおいて約2倍の突然変異率の上昇がみられたが、交流磁場のみ、あるいはUVとの相乗効果により突然変異率の上昇はみられていない。本研究における実験系では、細胞の分裂・培殖を許す系であるので、複数回のDNA合成が起きている。この系において突然変異率の上昇が見られていないことにより、DNA複製中の誤り、あるいは誤りを修復する機構にも磁場は影響を及ぼさなかったのではないかと考えている。
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