研究概要 |
電磁界の生体影響を明らかにするためには、生体組織内の作用部位における電磁界の性質(曝露量)を特定することが必要である。これを電磁界ドシメトリという。本研究では前年度の成果を踏まえて、さらに具体的な実験事例へのドシメトリの適用を行った。これまで報告されている現象の中で、宮越らにより低周波強磁界が細胞の突然変異を増加させる現象を発見したことは、磁界の生体作用の最新の知見である。この低周波磁界による突然変異の増加は誘導電界強度に依存する。そこで、同様の内部電界を発生させる装置の設計、解析、製作した。この装置を用いて、電界によって突然変異の増加が見られるかどうかの実験を行った。生物学的実験には上記の現象を見出した京都大学のグループの協力を得た。その結果、電界のみでも突然変異が増加するという結果を得た(論文投稿準備中)。 また、1辺3mmのセル3,900,000個からなる解剖学的構造を考慮した人体全身モデルを用いてさまざまな向きの低周波交流磁界にさらされたときの各器官における誘導電流密度を推定した。この結果を、昨年度以来行ってきたラットについてのドシメトリの結果と比較することにより、誘導電流に関してヒトと実験動物における曝露量の定量的な比較を可能にした。この成果は、また細胞レベルの実験でのドシメトリとin vivo実験との比較も可能にするものであり、異なる生物種、レベルでの生体作用の研究における実験条件の設計および比較考察にとって非常に重要な成果を得た。 作用機構解明のためのドシメトリに関して、マイクロ波聴覚効果に関する数値解析を行い、人体頭部の詳細な解剖学的構造を考慮したモデルでのマイクロ波パルスによる熱弾性波のシミュレーションを行った。その結果、解剖学的な構造の影響を考慮することでこの現象を定量的に理解することができることを示した。
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