研究概要 |
本研究は,損傷部より中枢の硬膜表層の脊髄(神経)電位信号を最新LSI技術と適応学習理論を応用して計測・情報処理を行い,電動義装具を各個人の特性に適応しながら制御する方法論を構築することで,失われた運動機能を回復するための技術的バックアップを目指すものである. 硬膜上では,多数の運動制御信号が重畳された形で記録され,理論的には損傷部より中枢での適切な神経電位の計測・分離により,各筋組織への信号を独立して取り出すことが可能である.しかしながら,これらの神経電位は,個体差のみならず知覚などの運動以外の非常に多くの電位が重畳された状態の複雑な波形として現れるため,これまでの技術ではこれを有効に活用することが困難であった.これまでの実験によって確かめられたのは以下の通りである. ラットを用いた電気生理学的実験において,感覚野直近の硬膜上から麻酔下で刺激誘発電位の計測を行った.また,計測された電位の時系列データに対して,適応学習理論に基づいてオフラインで信号分離実験を行ったところ,刺激に応じた認識クラスタの生成が確認された.また,同様の手法を用いて,下肢制御に関与する運動野第一層上の頭蓋部に固定した電極による計測を行った結果,下肢の運動に対応した電位信号の分離抽出が可能であることも確認した. 脊髄部硬膜上の電位計測については,電極の挿入方法に関する試行錯誤の段階にあり,ワイヤー状電極,多点電極について実験を行っている.特に多点電極については,マイクロマシニング技術により電極を形成し,電気的特性・生体適合性の評価,計測に適した電極配置の検討を行っている. 情報処理回路システムとしては,FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いることにより,特定の写像関数を合成できることと,その実験システムの構築を実施した.実験では,このシステムを用いて,学習理論を用いた情報処理回路を合成可能であること,および,情報処理回路を並列化して実現可能であるために,効率的に高速処理が実現されることが確かめられた.
|