脳内への細胞移植システムの開発を進めた。細胞源に関して、本研究費交付が開始された後に大きな展開があった。すなわち、当初は細胞源としてブタ等の動物を考えたが、動物細胞の内在性のレトロウイルスがヒト患者へ感染する危険性が指摘され、現状では動物細胞をヒト患者に移植することは問題外になった。一方では、ヒト成体内に神経系の幹細胞が発見され、さらにそれをin vitroで増殖させることが可能であるとの報告、また、胚性幹細胞からの神経細胞への分化誘導法の進歩、さらにヒト胚性幹細胞(ES細胞)の樹立の報告等が相次いだ。これらを細胞源として使用できる可能性が大きくなった。 細胞源が変化してもその免疫隔離膜の重要性は変わらないが、免疫隔離膜に要求される特性が変わる。ES細胞由来の分化細胞を患者に移植する場合同種移植になるため、免疫隔離膜としては移植細胞と免疫担当細胞の接触を防止でき、さらに、移植部位に炎症反応等を引き起こさないことが望まれる。この要求を満たす可能性のある膜として、ポリアクリルアミドのハイドロゲル膜と最外層がポリイオソプロピルアクリルアミドであるマイクロカプセルの開発を行った。また、脳内の移植空隙のない部位への移植であるため、細胞密度を出来るだけ高く、また、カプセル体積をできるだけ小さく移植する必要がある。前者に対する解決策として、細胞凝集体のカプセル化を試みた。多種の細胞からなる細胞凝集体を用いることで、それぞれの細胞の分化機能を高くまた長期間維持できる可能性がある。また、マイクロカプセルの体積を小さくする方法として、遠心分離カプセル化法を検討した。本方法は細胞凝集体の表面に極薄マイクロカプセルを作製でき、また、空カプセルが生成しないため、移植物の体積を小さくできる優れた方法であった。さらに大量遠心分離カプセル化装置の試作を行った。
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