暑熱環境下に曝露された脊髄損傷者(脊損者)が運動を行うと、短時間であっても脊髄損傷レベル(脊損レベル)が高い者ほど深部体温の上昇が著しい。一方、長時間の運動では脊損レベルの低い脊損者であっても、発汗能力の低下及び皮膚血管活動の低下のために、体温調節反応に影響するものと考えられる。そこで本研究では運動時間を30分間と長くした場合、脊損者の体温調節反応及び循環機能がどのように変化するかを、脊損レベルの影響に着目して検討することを目的とした。被験者は脊損者7名(Th3〜L5)及び健常者6名であった。まず、気温が25℃に調節された部屋に1時間滞在し、その後気温が25及び33℃に設定された部屋に1時間半滞在した。この曝露の最後の30分間、アームクランキング運動を20ワットの負荷で実施した。25及び33℃への1時間半曝露している間、皮膚温7カ所、鼓膜温、心拍数及び大腿部皮膚血流量を連続測定した。25℃の環境下の運動では鼓膜温の変化は小さかったのに対し、33℃環境下では時間経過とともに上昇した。とくに、脊損レベルが高いTh3からTh10までの被験者の増加が顕著であった。皮膚温の反応はさまざまで、脊損レベルの明らかな影響は観察されなかった。心拍数は全被験者とも定常に達することはなく、運動をしている間上昇を続け、脊損レベルが高い者ほど高い値を示した。脊損レベルの影響が明確に表れていたのは大腿部の皮膚血流量であった。脊損レベルが高い被験者では皮膚血流の増加は全く観察されなかった。一方、脊損レベルがTh12以下の脊損者及び健常者では運動時間が経過するとともに著しい皮膚血流量の上昇が観察された。これらの結果から、短時間運動と30分間の長時間運動の体温及び循環反応は基本的には同じであると結論することができる。脊損レベルの高い者は交感神経支配による皮膚血管運動及び発汗機能が障害を受けている。したがって、これらの障害のために放熱が十分行われることができなく、体温の上昇が起こったものと考えられる。
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