研究概要 |
心不全診療において血管拡張薬は現在最も有用な治療法の一つである。我々は非薬物性の血管拡張作用を有する温熱療法が、心不全患者の急性・慢性の血行動態を有意に改善させることを報告してきた。すなわち60℃、15分間の温熱療法により約1℃上昇し、心臓に対する前負荷・後負荷を有意に減少させる。その結果、温熱療法により心拍出量は有意に増加し、重症心不全の末期患者にも効果を発揮する。最近、半年以上に及ぶ長期IABP(intraaortic balloon pumping)の補助を必要とした重症拡張型心筋症患者に2ヶ月間温熱療法を施行し、IABPからの離脱に成功した症例も経験した。 一方、最近心不全患者の末梢血管機能の低下が指摘され、心不全治療における血管機能の改善効果が注目されている。心不全患者に対する温熱療法の効果発現機序を、血管機能の改善が関与していると考え検討した。対象は、2週間以上内服変更のない拡張型心筋症患者20名で、1日1回2週間のサウナ浴を施行した。結果は、臨床症状の改善に加え、心拡大の縮小、血中BNP濃度の低下(441±444vs.317±302,P<0.001)ならびに24時間心電図でのVPC総数の減少が認められた。前腕動脈を5分間血流遮断し、遮断前と血流再開後の上腕動脈径の変化率(flow mediated dilation %FMD)から得られる末梢血管内皮機能の改善も認められた(4.64±2.78% vs.5.46±2.73%,P<0.01)。また、血中BNP濃度の低下と末梢血管内皮機能の改善に有意な相関関係が認められた(r=0.54,P<0.01)。以上の結果より心不全に対する温熱療法の効果は,血管内皮機能の改善が関与していることが示唆された。
|