本研究では、中枢神経疾患に起因する運動障害性構音障害音声の音響分析に基づく客観的な構音の評価方法を提案し、構音障害音声の評価に不慣れな評価者でも客観的な評価を支援する音声評価支援システムをパーソナルコンピュータ上に構築した。さらに、音声治療専門家による聴覚印象評価と本研究で提案した音響的評価パラメータとの対応関係についても検討を加えた。以下の通りである。 1).構音を評価するための検査文として構音異常を発見しやすいとされる無声破裂子音/p/および、/k/を含む3モーラ無意味音節/apapa/および/akaka/を「いい〜です。」の中に埋め込んだ文とした。さらに、患者間の自由発話音声も収録し聴覚印象評価の一部として使用した。 2).的確な構音評価を行うための音響的評価パラメータの検討を行い、検査文中に含まれる無声破裂子音/p/または、/k/に続く母音/a/の音声パワー変化、スペクトル変化速度、検査文中の「いい」の部分における基本周波数変化率、検査文全体の発話時間長および、患者音声と正常者音声のパワー変化パターンの差異をDPマッチング法により求めた評価値の5種類を音響的評価パラメータとし、評価プログラムを開発した。また、音声治療専門家による聴覚印象評価の評価項目は、検査文における発話リズムの異常、発話速度の異常、構音状態の異常および、自由発話における発話明瞭度とプロソディの異常度とした。さらに、発話明瞭度とプロソディの異常度の評価値を加算したものを総合的な評価値とし、これを重症度とした。 3).症状の異なる患者181音声および、正常者350音声の分析評価結果から音声治療専門家による聴覚印象評価項目のうち、特に構音状態の異常とパワー変化速度、プロソディの異常度と発話時間長、発話明瞭度と基本周波数変化率に高い相関が得られた。さらに、総合的な評価値とした重症度と最も相関が高かった評価パラメータはDPマッチングによる評価値であった。
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