本研究は高齢障害者のQOL(quality of life)を実証的に分析するとともに、それを向上させるための有効なプログラムを確立することを目的とした。その際重視したのは、1)WHO国際障害分類改定案の「生活機能と障害」に対応する客観的QOLだけでなく、主観的QOLをも含めてQOL全体を構造的にとらえるべきで、各階層間の相互作用が重要である、2)高齢又は障害は本人だけでなく家族のQOLに対しても悪影響を与えるものであり家族のQOLをも重視すべき、3)QOL向上には医学的リハビリテーション(以下リハ)プログラムが機能障害レベル(生命の質)中心でなく能力障害レベル(生活の質)と社会的不利レベル(人生の質)に重点を置くものであることが重要、などの点である。 3年間にわたり、高齢障害者とその家族の客観的・主観的QOLの状況と問題点、それを向上させるための有効な方策の研究のために、脳卒中により医学的リハを受けた後に自宅に復帰し在宅生活を送っている高齢者とその配偶者を主たる対象として「包括的QOL評価法」による面接調査を行った。 その結果、1)障害発生によるQOL低下とその回復には性差・年齢差が存在する、2)高齢障害者本人のQOL低下によって家族のQOLも低下し、悪循環を形成する、3)「障害の受容」によって主観的QOLは向上するが、より高い客観的課題に挑戦することで一時的にそれが低下し、その課題の克服によって再び上昇するという「仮の受容」の存在が確認できた、4)生活の質と人生の質に重点を置く目標指向的リハ・プログラムが客観的・主観的QOLを向上させるのに非常に有効である、等の貴重な成果を得ることができ、リハ、福祉、介護のありかたについて大きな示唆が得られた。
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