平成10年度は脳血管障害による痙性片麻痺患者の足関節の他動的運動時におけるstiffnessの定量的評価を実験手技の確立を含めて施行した。対象は慢性期脳卒中痙性片麻痺患者10名および健常者10名とした。全例について等速性運動機器を用いて、検査肢位は仰臥位安静、膝関節伸展0度と屈曲80度で、両側足関節の他動的運動を10度/秒の角速度にて底屈10度から背屈10度の可動域で施行し、抵抗トルク、角度変化、角速度変化および前腰骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋の表面筋電図を同時測定し、各々を筋電計に入力してstiffnessの解析を行った。また検査時の足底圧関与の分析に歩行分析システムGANGAS(エムピージャパン社製)を使用した。本年度の知見としては1.健常者群のstiffnessでは左右差や膝関節肢位による影響を受けないこと、2.健常者群、患者群ともにstiffnessは角度ごとに一定ではなく変化すること、3.健常者群、患者群ともに角速度10度/秒の低速度では伸張反射を含めた筋活動は認められないこと、4.患者群のstiffnessでは膝屈曲位に比較して膝伸展位で有意に大きいこと、5.患者群の麻痺側stiffnessは非麻痺側および健常者に比較して有意に大きいことなどが考えられた。以上より慢性期の痙縮の成因について伸張反射以外にも関節組織や筋肉・結合組織や腱などの粘弾性の問題が大きく関与することが予測された。なお本研究の一部を第1回アジアリハビリテーション医学会学術集会にて発表した。平成11年度以降はさらに症例を重ねて、stiffnessの定量的評価を角速度の増加を踏まえて検討し、痙縮や麻痺などの定性的評価との比較検討および脳卒中発症急性期からの痙縮の経時的変化や予後を推定するために定期的な継続評価を行った上で、痙縮の成因や生体力学的変化を解明していくことを計画している。
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