1.経頭蓋磁気刺激中の脳波記録システムを改良し、刺激後50msec以降の脳波記録を可能にした。これにより、症候性てんかんなどのリスクのある被験者を対象として経頭蓋磁気刺激を行う技術的な準備が整った。 2.健常者を対象とした異名筋収縮による促通現象の研究を継続して行った。本年度は、前腕における拮抗筋の促通程度が、弱収縮の場合に利き手は非利き手よりも少ないことを明らかにした。 3.前頭葉への経頭蓋磁気刺激が健常者の前頭葉機能、注意および記憶と脳波に及ぼす影響を前年度から継続して検討し、少なくとも短期的には安全性に問題がないことが示された。前頭葉機能検査として、Wisconsin Card Sorting Test、注意検査としてはTrail Making TestとPaced Auditory Serial Addition Taskを行った。また記憶検査としては、三宅式記銘力検査、Benton視覚記銘力検査を用いた。 4.脳卒中患者1名から、本研究参加への同意を得て研究を行った。すなわち左被殻出血発症後3年を経過して右片麻痺を残す48歳男性に対し、経頭蓋磁気刺激を週1セット(100回の刺激)で3ヶ月間行った結果、手指の機能が改善した。手指の運動機能としては、刺激前は集団屈曲と尺側指のわずかな伸展のみが可能であったが、刺激後は母指と示指による横つまみ動作と示指を除く4指の伸展が可能となり、小指はほぼ完全に分離した随意運動を回復した。刺激時に指伸筋から記録した運動誘発電位は、刺激開始時には導出されなかったが、4セット目から導出され、徐々に振幅が増大した。刺激中に記録した脳波所見として、てんかん発作波や後発射などは記録されなかった。随意的な手指伸展時の筋電活動も、刺激前は記録されず、運動誘発電位が記録され始めた時期から導出されるようになり、徐々に増大した。
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