健康成人(20〜30代)の通常歩行あるいは歩行速度を変化させた時の下肢筋の運動単位制御を明らかにする目的で、表面筋電図周波数を非線型システムMemCaleで分析した。各相における中間パワー周波数、積分値、帯域別積分値の割合を求め、これらのパラメータを相互に比較することで遅筋線維、あるいは速筋線維に分布する運動単位の発火、漸増の制御を検索した。尚、下肢の被検筋を右側の前脛骨筋(TA)、腓腹筋内側頭(MG)、大腿外側広筋(VL)、内側ハムストリングス(MH)とした。 歩行周期における下肢筋活動は、遊脚相より立脚相に強かった。TAでは立脚相初期の顕著な活動には遅筋線維と速筋線維に分布する運動単位をバランスよく発火、漸増し制御していた。VLでは立脚相の強い筋活動には、選択的に遅筋線維に分布する小さな運動単位を抑制し、速筋線維に分布する大きな運動単位を優位に発火、漸増させて制御していた。一方、MHの立脚相初期の強い筋活動は、選択的に速筋線維に分布する大きな運動単位の発火、漸増を抑制し、遅筋線維に分布する小さな運動単位を優位に多く漸増させて制御していた。 MGは立脚相全般に活動し、特に中期にその筋活動が最も高く、これは速筋線維に分布する大きな運動単位がより多く発火、漸増しており、歩行時の蹴り出しに大きく貢献していることを示していた。通常歩行時における下肢筋の運動制御の傾向は歩行速度が変化した時でも同様に見られた。歩行速度が増加するとどの筋も強く活動し、歩行を増加させるにはTA、MGでは選択的に小さな運動単位を抑制し、より大きな運動単位を漸増させて踵接地時の衝撃緩和や蹴りだしを制御していた。65歳以上の健康老人の通常歩行では、若年者より下肢筋の筋活動は高く、これは選択的に速筋線維に分布する大きな運動単位を多く漸増させて制御している傾向よるものであり、殊にMHに顕著であった。
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