本研究では、イヌにE.coli由来のリポポリサッカライド(LPS)を投与して急性相反応を誘発し、薬物の体内動態に対する影響を検討した。アンチピリンの全身クリアランス(CLtot)は、急性相反応下でおよそ40%低下し、急性相反応下では複数のCYP分子種の活性が半分近く低下するものと予想された。In vitroの試験において、CYP1A活性はほとんど影響を受けなかったが、急性相反応下ではCYP2C活性、2D活性および3A活性が無処置のおよそ50%に低下した。これらのCYP分子種の量が急性相反応下で低下しているものと考えられた。これらのCYPによる代謝によって体内から消失する薬物の体内動態への影響を検討した結果、テオフィリン(CYP1A)、フェニトイン(CYP2C)およびニフェジピン(CYP3A)のCLtotは急性相反応下で有意に低下し、低下率はそれぞれ50%近くであった。急性相反応下では、生体内においてもこれらの活性が半分近く低下する可能性が示唆された。 急性相反応下でのCYP活性の低下が臨床上どの程度問題になるかを明らかにする目的でニフェジピン経口投与後の動態に対する急性相反応の影響を検討した。その結果、消失相での血漿中濃度は対照群のおよそ2倍となった。生体内利用率は有意に高く、対照群のおよそ2倍であった。体内滞留期間には有意差はなかったが、急性相反応下では長くなる傾向が認められた。これらの結果を総合すると、ニフェジピンを臨床で用いる場合には、少なくとも投与量を半分で用いる必要性があることが示唆された。 本研究では薬物の血漿蛋白との結合への影響は検出できなかったが、急性相反応時にはこの影響も考慮する必要性があると考えられる。
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