今年度は、音楽が、コンサートホールや都市の生活空間など様々な脈絡で空間化される事例に着目し、音楽の内在的要素が提示空間の技術的/社会的環境に左右される様態を考察した。主だった事例としては、1970年に大阪万博において武満徹が立案、構想をかかげ実現した鉄鋼館と、フランスにおける電子音響音楽と音の環境デザインを取り上げた。前者は、昨年度より研究成果と統合して日本建築学会の論文として発表した。後者については芸術工学会に投稿し、現在審査中である。 前者の事例については、資料収集などの基本作業が昨年度中に済んでいたので、付加的図版の獲得と編集整理、およびテキスト執筆が今年度の主な作業となった。 後者、すなわち電子音響音楽の研究に関しては、昨年度に引き続き今年度もパリおよびモントルイユにて調査、ヒヤリングを行い、フランス国営放送の貴重資料やピエールシェフェール研究センターの第一次資料にもあたった。電子音響音楽は、パリ国営放送内で1948年に実験的に開始されたミュジック・コンクレートの理念と技術に端を発するが、そこから生み出された音の社会環境論は、現在の公共空間の音環境デザインや公共事業の一環として実践されているサウンド・デザインに強い影響を与えている。 音の環境デザインとして応用される音楽は、音楽作品の内在的論理や音の諸要素の時空間レベルでのデザインのみで生み出されているわけではない。そこには、内在的空間性とは切り離された外在空間、すなわち人間が生きる現実空間が、音楽の新たなる「空間性」パラメータとして浮上する。その経緯が今年度の主な知見である。
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