視覚系では、各種の視覚属性に対応した情報処理が異なるモジュールで行われている。しかし、このように別々に処理された情報がどのように統合されて整合性のある知覚が成立するのか、という統合問題は未解決のままである。視覚系でしばしば観察される同期的スパイク発火がこの統合問題を解く鍵として注目されている。そこで、本研究では、カエルの網膜神経節細胞(ディミング検出器)にマルチ電極法を適用し、スパイクの同期的・周期的発火について検討した。強度を正弦波状に時間変調させた全面照射光で網膜を刺激すると、ディミング検出器のスパイク発火は約30Hzの周期的パターンを示した。スポット光刺激では、このようなパターンは生じなかった。任意のディミング検出器ペアのスパイク発火について相互相関を求めたところ、全面照射光の場合、細胞間が2mm以上離れていても同期的発火と約30Hzの周期的発火パターンが見いだされた。しかし、各受容野をスポット光で刺激した場合、周期的発火は生じず、受容野が近傍にあるペアのみで弱い同期的発火が観察された。GABA受容体の阻害剤を投与すると、周期的発火は消失した。スパイク間間隔の解析から、ディミング検出器は末梢側に存在する30Hzの発振回路(あるいは発振素子)から入力を受けていることが示唆された。以上の結果から、カエル網膜には、ディミング検出器に対して、大きな領域の光刺激で周期的発火を生成させる広域的な神経回路網と、小さな領域の刺激により同期的発火を生成させる局所的な神経回路網とが存在することが強く示唆された。小さな多数の影ではなく、大きな影がカエル網膜に投影された場合には複数のディミング検出器に位相の合った同期的周期発火が生じるため、視覚中枢においてこの様な発火を検出する細胞が存在すれば、大きな影が現れたときにのみ逃避行動が誘発されると考えられる。
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