動物園において観境エンリッチメントを進めるためには、まず動物がどのように1日を過ごしているのかを明らかにする必要がある。本研究では動物園に飼育されている哺乳類9種の行動特性を検討するために、行動を詳細に記述した。さらに野生動物との比較から、動物園の動物の行動的特性を検討した。その結果、1)動物園における9種の動物の行動には顕著な季節変化が見られず、2)主要な行動レパートリーも採食、休息・睡眠、目による探索などわずかなの種類に限られるということが分かった。すなわち、動物園の動物の行動パターンは非常に単純だと見なすことができる。このような行動レパートリーの少なさは、飼育環境が動物にとって利用できる機能に乏しく、活動性が低下したことに起因すると推察される。また、一般に野生動物は1日の半分以上を採食に費やすといわれている。これに対し動物園の動物では、草食動物で50%以上になるものの、他の動物では多い場合でも30%というように、採食の機会は限られており、野生状態に比べて著しく小さかった。 次に、通常の餌の品目や量を変えることなく、餌の配置や給餌回数の操作が採食行動、あるいは1日の行動レパートリーの種類とその時間配分におよぼす影響について定量的な検討をおこなった。対象には野生状態で採食様式が大きく異なる哺乳類3種、エゾヒグマ、インドゾウ、チンパンジーを選択した。3種の哺乳類において、餌の品目や総量を変えず、給餌条件を操作することで、採食時間を引き延ばせることが明らかとなった。それにともないヒグマでは文脈不明行動の持続時間が、インドゾウでは探索行動と文脈不明行動、チンパンジーでは文脈不明行動あるいは睡眠が減少した。このような動物へのある操作が当該の行動のみならず他の行動にまで影響するということは、実際にエンリッチメントを進める際には行動を広い視野で捉える重要性を示唆している。
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