自閉症男児1名を対象に標準的誤信念課題を教える試みを行なった。サリーアン課題と同構造の課題場面として、「宝探し」場面を設定した。宝探しは、2〜4名のプレイヤーが順に自分の宝物を隠し、全員が隠し終わった段階で各プレイヤーが自分の宝物を探すというものであった。各プレイヤーは条件によって、他者が隠す場面を見ることができる場合、できない場合があった。また、他者の宝物を他の場所へ移動することができた。課題は、全プレイヤーの行動を観察した後、(1)〜は、自分の宝物をどの箱にかくしましたか?、(2)〜の宝物は今どの箱にあるでしょうか?、(3)〜は、自分の宝物がどの箱にあると思っているでしょうか?(信念を問う質問)、(4)〜は、自分の宝物を取り出そうとして、最初にどの箱をあけるでしょうか?(行動を予測する質問)、等の質問に答えることであった。サリーアン課題などの誤信念課題に正答するには、物品の移動時に当事者が見ていたか否か、物品が移動されたことを知っているか否かを正しく弁別しなければならない。アセスメントの結果、(1)対象児は宝探し場面において「最初に」「思う」などの何らかの言語的手がかりを利用して機械的読み替えを行なって解答していること、(2)「見た/見なかった」および「知っている/知らない」については、それだけに注目することができる場合には正しく弁別することができるが、(3)その情報を宝探し場面では利用していないことが明らかになった。そこで、訓練では言語的教示を用いるのではなく、対象児が質問への解答をした後、各プレイヤーに実際に宝を探す場所を答えさせることによって、正誤のフィードバックを行なった。また、正答の場合のみ得点を与え、得点を競う競争事態を設定し、正答のみが強化される随伴性に対象児をさらすこととした。その結果、対象児は比較的速やかに他者の正しい信念や誤まった信念に基づく行動を正しく予測できるようになった。
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