本研究は、近年増大しつつある犯罪を抑止する条件を環境設計の側面から明らかにするために、最近我が国においてもその研究が関心をもたれるようになった犯罪への環境論的アプローチを用いて、犯罪の発生や住民の犯罪に対する不安を生み出す住居、環境要因について検討することを目的とした。 研究は大きく二つに分かれる。一つは、環境論的視点からの研究をおこなうにあたり、警察統計を用いて、犯罪をその発生場所に着目して分類することである。他は、犯罪被害や犯罪への不安、および地域環境条件についての質問紙調査を実施し、犯罪被害と不安に関与する住居、地域環境要因を明らかにするものである。 その結果、地域の無作法性や乱雑度、集合住宅の比率などの地域特性、あるいは高齢者、若年者の比率などの住民特性など、多くの地域環境要因が犯罪の発生や不安形成に関与していることが明らかとなった。また、監視性や道路構造、集合住宅のエレベーターなどの場所的要因もまた、犯罪多発地点の形成に関与することが明らかとなった。しかし、本研究の重要な点は、こうした環境要因の犯罪発生過程における役割は犯罪の種類ごとに異なり、特定の環境要因が多くの犯罪に一様なかたちで関与するものではないことを示した点である。すなわち、無作法性にみるように、それが犯罪の機会を増大させるかたちで犯罪を促進する場合と、逆に犯罪対象(獲物)の不在を意味し、犯罪を抑制する役割を果たす場合がある。もう一つの重要な点は、高齢者や集合住宅における子供の存在のように、潜在的被害者の提供という点で犯罪に関与する場合があることを明らかにしたことである。また、本研究は、同一の犯罪でも実際の被害発生に関与する要因と住民のその犯罪に対する主観的な不安形成に関与する要因は必ずしも一致しないこと、したがって犯罪抑止の方策と不安軽減のための方策は区別して策定する必要があることを明らかにした点でも重要な意味をもつ。
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