平成10年度の研究実績は、大きく次の2点に整理できる。 (1).集団間での比率の相違を構造効果の観点から説明する確率的モデル(平成8年度奨励研究(A)で開発)に、社会規範の効果と人びとの選択を組み込んで展開を試みた。これは、集団規模による構造効果を所与としたときに、集団成員が集団内結合(友人選択や結婚)を合理的だと考えるためには、どれくらいの強さの内部結合規範が必要になるかを、モデル解析的に考察したものである。この中途成果は国際社会学会モントリオール大会(1998年夏)で報告し、そこでのコメントや、本補助金のもとでいくつかの大学を訪問して得られた資料・コメントをもとにモデルを改良中である。 (2).C.C.Raginのブール代数アプローチを、集団内部および集団間の役割共有度の問題に展開した。役割に、それを構成する要素が階統的に結びついた内部構造を想定し、それをブール式で定式化した。そして、ある役割の内部構造に対する人びとのイメージが必ずしも一致していないときに、当該役割の識別が人びとの間で可能になるための一般的条件を吟味した。役割の内部構造パターンと識別困難性との関係を、数学的な条件式で整理することが目標だが、現在のところはまだそこまで精緻化を進めきれていない。一方で学部学生を対象とした役割イメージに関する簡単な調査を実施し(1998年12月)、そのモデルにもとづいて集団内部および集団間の役割共有度を測定する、という実証的展開を試みた。この中途成果は日本社会分析学会第96回例会(1998年12月)で報告した。いずれの方向性についても、学会報告でのコメントや、本補助金のもとでいくつかの大学を訪問して得られた資料・コメントをもとに、さらに精緻化と展開を企図している。
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