初年度である本年度は、2年度と3年度におこなう実査の基礎研究として、おもに高齢者の家族・親族コミュニケーションの研究について国内外の文献を収集・検討した。同時に、これまで研究代表者がおこなってきた高齢者と家族に関する調査研究を再検討する作業もおこなった。そうした作業を通して、わが国の家族社会学の主流であった、子家族による老親扶養といった「家族のなかに含まれた高齢者」の視点からの研究ではなく、「個としての高齢者による家族の再構築」といった新しい視点からの研究が、今後は不可欠であることをみいだしたのである。その成果は、研究代表者の単著として『高齢期家族の社会学』(世界思想社、1999年2月刊)にまとめている。 また、調査地の選定のために、東京都、大阪市、名古屋市の近郊にあって高齢化の著しいニュータウンについても資料の収集をおこなってきた。その結果、規模の適正さや調査の可能性などから判断し、名古屋市の近郊にある高蔵寺ニュータウン(愛知県春日井市)において、2・3年度は面接調査をおこなうことに決定した。現在、居住地域別や居住年数別などを考慮しながら対象者(高齢前期の夫婦)を選定するための準備などをすすめているところである。前述した「個としての高齢者による家族の再構築」という視点から、高齢期における夫婦、親子、きょうだい、その他の親族とのコミュニケーションやネットワークの状況について探り、さらにはライフコース論や都市社会学などの研究業績も参考にしながら、生活史のなかで家族・親族コミュニケーションが家族変動と地域変動の影響をどのように受けてきたのか、そして将来はそれにともなってどのような方向にむかっていくのかについても考察する予定である。
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