今年度は、中国系居留者については学校教育の問題を日本の固有のマイノリティであるアイヌの教育問題と比較して分析した。イスラーム系に関しては、イランやパキスタン、バングラデシュから来た男性と結婚した日本女性のムスリマへの面接調査を通してイスラームへの回帰現象を追求した。ここでは後者の問題を中心に報告する。 このところ世界的にイスラーム化現象が注目されているが、日本の女性がイスラームに入信する動機は、面接調査の結果、次の6類型にまとめられる。1つは、強力な一神教のもつ魅力である。今の日本には自由があり過ぎるほどあるが、むしろ多くの義務や規制の伴うイスラームに、「我欲」を抑制する魅力を感じている。2つは、ラマダンや豚肉を禁止する食物規制への関心である。女性のやせ願望とも重なり、何でも食べられる文化はむしろ健康を損ね有害なのではないのかと思わせている。3つは、男女の隔離である。不倫が流行するなかで、イスラームの説く「異性に魅惑される弱き存在としての人間」、それ故に「隔離」は必要という思想が、性道徳の乱れとあいまってイスラームに対する関心を逆に深めている。4つは、イスラーム諸国の男性の強さである。日本の男性は、少子化により母親に甘やかされているため、同年齢の女性からは頼りのない存在にみられている。そのため、家父長制原理で行動するイスラーム系男子を頼もしく思わせている。5つは、精神の空洞化に対する不安である。日本人には、イスラームの人々のような強力な内面的支えがなく、混迷する時代に不動の信念をもちたい心理がイスラームへの関心を生んでいる。6つは、イスラームの人々の強い互助組織である。最近は、人間関係が希薄である故に、イスラームの濃密な人間関係が若い女性を引き付けている。次年度はイスラームの二世が、保育園や学校教育にどのような問題を提起しているか、中国系と比較してみたい。
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