本研究は、近年「新しい社会理論」として注目される「感情社会学(Sociology of Emotion)」を理論枠組とし、学級秩序の形成に果たす「感情」の役割を明らかにする。特に教室授業場面における「からかい→当惑→当惑感情の処理」という一連の過程に注目した。「当惑感情の処理」は個人の心理的機制ではなく、学級の構成員に分有された秩序形成の・社会的メカニズムである。しかし公教育の「制度疲労」が語られる今日、既存の規範的学校文化は教室における当惑感情の処理に充分対応し得ない。なぜなら公教育の「制度疲労」は、禁欲主義をエートスとする学校文化と、感情を商品化する消費社会文化との乖離を示しており、自明であった「学級=生活共同体」論そのものが揺らいでいるからである。そこで本研究では、従来は「非合理的」と看過されがちであった「感情」を、学級秩序形成の根幹に在るものと捉え、その文化的制度化過程に注目している。 本年度は研究計画の初年度であり、当初の予定通り、教室授業場面への参与観察によるデータ収集、および先行研究の整理を行った。まずデータ収集では、教育実習期間中の中学校において教室授業場面の参与観察を行い(100時間)、「からかい→当惑→当惑感情の処理」のプロセスに関わる言動を収集した。同時に教師と実習生、及び生徒へのインタビュー調査を行った。特に教師に対するインタビュー調査(約30時間)では、教育実習生に対する指導教官の「まなざし」に注目し、その指導上の規範的対応のパターンを抽出することができた。なお、これらの記録データはテープ起こし等の処理を経て、現在、データベース化を進めている。また先行研究の整理は、近年、感情社会学において注目を集めているE.ゴフマンの「当惑と相互行為秩序」に関する研究を中心とし、その二次文献等の資料を収集・整理している。
|