標記の研究領域は新しくしかも未開拓のものであり、従来は浅薄でさらに表層的な論議で粉飾されていた。それに対し今回は総合的にまた学際的に把握し研究することによりかなり本質的な問題に迫ることができた。アルスター地域の抱える文化的諸問題に対し、民族、宗教、民衆文化、教育、歴史、言語、政治経済などの面から分析を試みた。その結果1998年7月アイルランド、リムリック大学で開かれたアイルランド国際文学会に出席し、研究の成果を発表した。このことにより筆者が平成6年に公表し平成8年に加筆した著書『アイルランド-緑の国土とその文学』(研究社出版)および平成9年に刊行の著書『EGO DOMINUS TUUS-現代アイルランド・イギリス詩学』(多賀出版)に加えて、新たな展開を示すものとなった。これらの成果は編著『多言語文化のディスクール-民衆文化と社会と芸術』(多賀出版)として平成11年2月に上梓された。そのなかには詩人シェイマス・ヒーニーに関する論考2編含んでいる。さらに平成10年7月ダブリンにて文芸批評家マイケル・オトゥール氏との会話、バーナード・ショーの芝居『セイント・ジョン』(アベイ座)の観賞、11月ケンブリッジで詩人ブレンダン・ケネリー教授の作品朗読と講演、12月シェイマス・ヒーニーとの会談などを通して、新たな知見を得た。それは従来ベルファーストで詩人マイケル・ロングレーや研究家エドナ・ロングレーなどを通して得られた知見に対して、いわば外部からの観察による客観的なものであった。これらの経験によりシャンキル・ロードとフォールズ・ロードの対立、キャソリックとプロテスタントの相克、ゲール語と英語、神話と民話、さらに歴史観の対立、など様々な要因が複雑に絡み合っていることが判明した。次の課題はコルレインとデリーを解明し、その都市に根ざす問題を明らかにすることである。
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