日仏語間の機械翻訳を目的とする文の意味表示を得るために、以下の研究を行った。 (1) 日本語の時制・アスペクト形式を伴う動詞形をフランス語に置き換える際に問題となるのは、部分相(未完了相)形式「ている」「ていた」が、(1)事態そのものの部分、(2)事態の結果生じる状態の部分、のいずれをも表示することがありうるということである。これら(1)(2)の意味は、フランス語では(1)が現在または半過去時制、(2)は複合過去、単純過去、大過去、前過去によって表されることになるため、(1)と(2)の意味が生じる条件をできるだけ正確に記述しておく必要がある。そのための前提となるのが、これらの時制・アスペクト形式を伴う動詞の表示する事態の時間的性質の理解である。事態の時間的性質は、まずはそれを適切に分類することによって大きな枠組みを与える必要があり、本研究では従来の学説で「瞬間動詞」として分類されていた動詞群を、「本来的瞬間動詞」「事実的瞬間動詞」および「変化動詞」に下位分類することを提案した。 (2) フランス語においては形式的に統一された形で表示されることのない「主題」という概念は、日本語においては係助詞「は」によって義務的に表示されることになっている。したがって、特にフランス語から日本語への翻訳の際には、この主題という概念が意味的にどのような特徴をもっているのかが、形式化することも可能であるような形で記述されている必要がある。さらにはまた、日本語の「は」は、「主体」という意味役割を表示する頻度が高いという点で、同じ意味役割を専ら表示するための格助詞である「が」と意味的な対立を示している。本研究では、ともに主体を表示する場合の「は」と「が」の機能がどのように相違しているのかを、文の構造と形態素の表示する集合という観点から詳しく分析することを試みた。
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