本年度は、主として刑務所協会雑誌に掲載されている再犯問題に関する論考、議会資料等を基礎として、1875年6月5日の「地方刑務所制度に関する法律」と1885年5月27日の「再犯者に関する法律」と同年8月14日の「再犯防止に関する法律」の二つの再犯者に関する法律の制定過程を検討した。これによって、フランスの、刑法学、刑事システムがこの10年間に大きく変容していることが明らかにされた。 1875年法は刑務所によって犯罪者の矯正をはかり再犯を防ぐという古典的な考え方に基づいて制定されているが、この法律を実現することは極めて困難であった。法律制定直後から再犯者に対する新たな方策が議論されはじめ、そこから1885年の二つの法律が生まれてくる。この二つの法律の議論の過程で常に参照されるのは、「矯正不能な犯罪者」であり、「機会性犯罪者」「習慣性犯罪者」といった犯罪者の類型論である。5月法では「矯正不能」な犯罪者を社会から駆逐することによって社会を防衛すると言われ、8月法は「機会性犯罪者」の更生を目指すものであると整理することができる。この議論の中では、犯罪行為の重大さに応じて刑罰の重さを決めるという対応関係が崩れ、それよりも犯罪者の危険性に応じて処罰を決めるという考え方が現実のものとなっていく。さらに、刑務所内部の規律、出所後の更生支援策など、独居拘禁以外のさまざまな方法を複雑に組み合わせることによって犯罪者の矯正が目指されるようになる。自由意志を前提として責任を問い、一定の刑罰のヒエラルヒーのなかで犯罪行為を処罰し、独居拘禁を中心において犯罪者の矯正をはかるという古典的な考え方はここで重大な変更をきたすことになる。 以上の研究結果の一部は京都学園法学に掲載した「拘禁と追放」において論じられている。
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