本研究の目的は、制度分析とマクロ動態分析とを架橋し総合する観点から、現代日本経済の産業構造の動態と雇用システムの進化を分析することである。そのための基礎作業として、平成10年度は以下のような研究を行い、実績を残すことができた。 1. まず、研究全体を方向付けるため、これまでなされてきた日本的雇用システムに関する研究、および産業構造動態に関する研究の成果を総合的に整理するとともに、労働生産性、産出量の成長(あるいは稼働率)、雇用、賃金などに関する部門別の制度的特性を定式化する作業を行った。 2. より具体的な作業内容としては、以下のとおりである。(1)雇用システムに関しては、雇用調整モデルや失業率変動モデルをふまえつつ、より広い「社会経済システムの制度分析」の観点から賃金や雇用の調整メカニズムを検討した。特に、賃金調整・雇用調整の産業別の特性や「労働保蔵」に関わる制度的補完性といった様々な制度的な問題に注意を払い検討を試みた。(2)産業構造動態に関しては、進化経済学やレギュラシオン理論における産業動態モデルや産業進化モデルを、生産性上昇率、稼働率、雇用率の動態と関わらせつつ検討し、いくつかの統合モデルの可能性を模索した。(3)さらに、ミクロ的制度変化とマクロ経済動態との相互作用を分析するための理論的枠組みとして、「制度論的ミクロ・マクロ・ループ」という考えを著書や論文で提起した。このような観点にもとづき、本年度検討した産業動態と雇用調整・賃金調整モデルを統合することによって、計量分析に基づく実証研究を行っていくことが、来年度以降の研究課題とされる。
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