本年度における研究実績の概要は次のとおり。 1. 経済戦略会議や経団連は日本の公的年金を1階の基礎年金のみに限定し、2階の報酬比例部分は30年程度の時間をかけて完全民営化すべきであると主張している。しかし2階民営化案は380兆円に上る未積立の年金純債務をどう処理するか具体化していない。国費(税金)の投入は大方の理解を得ることができないだろう。保険料で純債務を償却しようとすると、相当長期間にわたって年金保険料を現行水準より引き下げることができなくなる。それは経済活動にマイナスの影響を与え、消費低迷・不況継続・失業率上昇につながるおそれが強い。 2. むしろ2階部分は公的年金として継続しつつ、若干の給付スリム化を図る方が無理は少ない。あわせて基礎年金を税方式に切りかえ、消費税を年金目的税化して、その財源にあてると、相当な期間にわたって年金保険料の引き下げが可能になる。 3. 公的年金の保険料引き下げ分を用いて掛金建ての老後貯蓄を奨励する仕組みを作ることは推奨に値する。そのさい拠出時非課税・運用時非課税・給付時課税の原則を適用するのが望ましい。ただし給付については米国の401kのように一時金払いを認めるべきである。 4. 上記のポリシー・ミックスにより老後所得に占める公的年金の守備範囲は今後、徐々に低下する一方、私的営為の役割が少しずつ高まっていく。これは、公的年金の部分民営化案と結果的に同様の帰結をもたらす。 5. 厚生年金基金による公的年金の代行は基本的に無理が多く、原則廃止とすべきである。それに伴い厚生年金基金連合会も解散してよい。
|