研究概要 |
離散凸解析は,連続変数に関する最適化(非線形計画)と離散変数に関する最適化(組合せ最適化)を統一的な視点から捉える枠組みとして代表者によって構築された数理計画理論であるが,本研究では,離散凸解析の理論的成果を都市工学や数理経済学という社会科学の分野に応用することを目標として,以下の成果を得た. (1) 不可分な財を含む経済均衡理論における効用関数として従来考察されたものの多くがM凸関数であることを指摘した.他方,効用関数にM凸性を仮定することによって一般的な均衡存在定理が得られることを示した.この結果は,M凸性の概念が,経済学でも有用かつ妥当なものであることを示している.以上の知見を,Danilov氏,Koshevoy氏との共著論文の形にまとめて,数理経済学の学術誌に投稿した. (2) 離散凸解析は,元来,整数格子点上で定義された整数値関数に関する理論であったが,実数空間上で定義された関数に対してもM/L凸関数の概念を定義し,M凸性とL凸性の共役性を中心に,その基本的な性質を調べた. (3) 凸関数を費用関数にもつネットワーク流問題に関するRockafellarの理論を,実数空間上で定義されたM/L凸関数(上記の(2))を用いて拡張することを試みた.費用関数が区分的に線形な(多面体的な)M/L凸関数の場合には厳密な理論を構築できたが,一般の非線型M/L凸関数に対しては,双対定理の解析的な部分の議論にまだ数学的に不完全な点を残している.しかし,少なくとも,これによってネットワーク流問題の枠組みに非分離関数(nonseparable function)を導入することが可能になった.なお,この結果は,実数空間上のM/L凸関数に関する双対定理として位置づけることができる.
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