研究概要 |
計算量的に複雑な関数が解析学,特に確率論の中でどのような振る舞いをするか,というテーマで代表者自身が得た結果を記す. s次元トーラスT^s上のWeyl変換(無理数回転)の軌道{x_n=x+nα}_nを考える.ここに,xは初期値,αは無理数(ベクトル)である.これを関数fに代入してできる列{f(x_n)}_nを(T^S,dx)上の確率過程と見なす.もちろん,これは独立確率変数列ではない.しかし,関数列{f^<(m)>}_mを関数がどんどん複雑になるように取ると,しばしば{f^<(m)>(x_n)}_nが独立確率変数列に分布収束することがある. たとえば,金沢大学の高信敏氏と代表者杉田の共同研究で,非常に高い次元の変数に関して対称な関数の場合にこのような現象を示した.このような現象は関数f^<(m)>の解析的な量(たとえば全変動量)が複雑になる,というのでは不十分で真に計算量的に複雑性を増すものでないと現れないような印象を受ける. また,同じく高信氏と杉田は複雑な関数の数値積分法について「ロバスト性」という概念を導入した.複雑な関数の数値積分のためにはランダムなサンプル方法が不可欠であるが,独立確率変数列によるサンプリング(古典的モンテカルロ法)ほどランダム性がなくても十分ロバストなサンプリングが可能であり,実際,ランダム化されたWeyl変換が現時点ではもっとも適切であるとした.この結果は,近々,学術誌に投稿する予定である. このように,計算量的に複雑な関数とランダム性(正確には疑似乱数性)の関連は様々な現象で,もって解析的に観察されることが分かった.
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