本研究の目的は、格子QCDの数値シミュレーションによって、第一原理的に相境界での輸送係数、特にバリオン透過係数を計算し、バリオン数の空間的一様性を仮定している標準ビッグバン模型の正否、およびQCD相転移に起因する重元素合成の可能性、の2点を明らかにする事にある。平成10年度は、この研究のための予備的計算として、真空中及び有限温度系のハドロンの性質を明らかにする目的で、以下の研究を行った。 (1) 真空中でのハドロン伝播関数の格子QCD数値シミュレーションを行った。具体的には、20^3X24の格子でβ=6.0の数値計算を行い、約100ゲージ配位を使って、中間子・重粒子の5つのチャネルでの2点相関関数を計った。 (2) この数値結果と、最大エントロピー法を組み合わせて、ハドロンのスペクトル関数を再構成した。特に最大有効エントロピーを効率良く求めるために、特異行列分解を使って約200次元の空間内での検索方向を逐次決定するプログラムを開発した。この結果、ハドロンのスペクトル関数が低振動数領域から高振動数領域まで少ないエラーで求める事が可能になった。 (3) さらに、この結果を有限温度系に拡張する予備的数値計算を開始した。
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