研究概要 |
1. 森林総研の田中浩氏から提供していただいた小川森林保護区の航空写真による実測データに対して,我々が開発したイジングモデルによる解析方法を適用した.その結果,1976年,1981年,1986年の林冠ギャップのサイズ分布は,我々が決定したパラメータを持つイジングモデルのギブス分布でほぼ完全に記述できることが分かった.この結果は,パナマのバロコロラド島の熱帯季節林調査区のデータに対して以前に我々が行なった解析方法が,温帯落葉性森林に対しても有効であることを示している. 2. 小川森林保護区の1991年のデータは,これに反して,イジングモデルのギブス分布では記述できないことが分かった.分布を特徴付ける別の指数の1991での変化と合わせて考察することにより,1991年の森林動態は,他の年とは異なり平衡状態から大きく外れているのではないかという推論をした. 3. 森林動態に対する別の数理モデルとして,ある種の森林火災のパーコレーションモデルを提案し,計算機シミュレーションを行なった. 4. 森林の林冠ギャップ分布はあるサイズ領域ではべき乗則によって記述されることが分かった.この事は,森林がある意味で臨界状態近傍に自己組織化する傾向にあることを示唆する.自己組織化臨界現象を示すモデルのうち,解析的な取り扱いが可能なAbelian sandpile modelに対して,特に相互作用に異方性がある場合について新しい厳密解を得た. 5. 統計物理学の生態系への応用の別の例として,ワタリバッタの相変異および大発生に対する数理モデルをいくつか提案した.そして,計算機シミュレーションを行なうことにより,モデル化の有効性について議論した.
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