我が国のような温帯湿潤域で且つ地形起伏に富み、また流域規模の相対的に小さな地域においては、地下水の流動速度が相対的に大きく且つ地下水域が小さいために、地下水帯水層中に保存されている連続した古水文情報の抽出は、精々数百年から古くても数千年度程が限界と考えられる。しかしながら帯水層間の粘土・シルト層を主体とする難透水層にはそれらの地層の堆積した時代の情報が封入されている可能性がある。そこで、福島県いわき市周辺の縄文海進期に堆積したシルト性の難透水層を対象に、シンオールコアリングによる粘土性シルト層を採取し実験室において冷却遠心機およびプレス装置による地層中の土壌水分の抽出した。抽出水について安定同位体比およびCI濃度分析を実施し、それらの深度別変化を時系列的データとして評価した結果、ある程度の層厚を持つ粘土層には、堆積時の情報が一部残存している可能性が確認された。また、シルト層中に見出される貝化石の^<14>C分析による年代決定により堆積時代の確定を試みた。 これらの総合的解析の結果、地層堆積時の海水成分の情報が5000〜6000年後の現在まで保持されており、シルト層上下の不圧・被圧地下水間のポテンシャル差から想定される地下水流動はきわめて小さく、堆積時の水質情報が十分隔離できる環境にあったことが判明した。また同位体比から推定された古海水温変動は7000年前〜5700年前の数百年のタイムスケールで最大2℃程度の古海水温の変動が存在していたものと見積もられ、異なる手法による古気候情報と良い整合を示した。これらの事実により、本研究によって提案された手法の有効性が確認された。
|