研究概要 |
今年度は基礎理論の応用として,無衝突磁化中プラズマの非等方性について研究をおこなった。宇宙空間のプラズマは2体衝突頻度がきわめて低いため,その速度分布が熱的平衡である等方的マックスウェル分布とはちがうことが頻繁におこる。その一例として典型的なのが磁場がある場合の温度非等方性である。近年,ロスアラモス研究所のP.Garyらの精力的な研究により,イオンサイクロトロン波がプラズマイオンを散乱する場合には温度非等方性の上限とプラズマβ(ガス圧と磁気圧の比)に顕著な反相関関係があることがわかってきた。この現象は宇宙空間での衛星観測,室内実験,および計算機実験によってたしかめられている。 本研究ではこの反相関を最大エントロピー原理をもちいて解明した。もし,プラズマイオンの散乱が垂直方向/水平方向の区別なく効率的におこなわれれば,結果はエントロピー最大の分布,つまり等方的なマックスウェル分布になるはずである。ところが,イオンサイクロトロン波による散乱の場合,散乱過程に束縛条件が存在するので,プラズマは等方分布に近づくが,完全な等方分布には達しない。この束縛条件とは,波にのった系での個々の粒子のエネルギー保存である。磁力線方向に伝搬するイオンサイクロトロン波の様な電磁モードの波の場合,波に乗った系で考えると時間変動がゼロなので,誘導電場も存在せず,波によってプラズマ粒子の運動方向は変わるが運動エネルギーは一定のままなのである。この束縛条件のもとでエントロピー最大の分布を求めると,Garyらの指摘する反相関関係が定量的に再現された。これは無衝突プラズマでも統計力学的手法が有効であることを示唆する一例となろう。この結果は1999年アメリカ地球物理連合秋期大会で報告され,また,現在,Physics of Plasmas誌に投稿予定の論文を執筆中である。
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