付加帯の岩石が強く安定な二次磁化を持っているという調査結果が日本やアメリカ西海岸から報告されている。これまでの研究によれば、赤色チャートの二次磁化は付加プロセスのある時期に獲得されたと考えられている。従って二次磁化の方位や磁性鉱物を特定すれば付加プロセスに関する情報が引き出せる可能性があると考えて二次磁化に焦点を当てた測定を始めた。 本研究の調査地域は岐阜県各務原市木曽川沿いの勝山である。Shibuya and Sasajima(1986)によれば、この地域の赤色チャートの磁化には4つの成分(低温からA〜D)があり、そのうち二次磁(A〜C)はマグネタイトが担っているということが明らかになった。しかし、彼らは初生磁化(D)や300℃を越える熱消磁で得た二次磁化(C)に焦点を当てており、低温(300℃以下)で消えてしまうような二次磁化についてはほとんど言及していなかった。またマグネタイトがどのような様式でチャート中に含まれているのかは明らかではなかった。そこで本研究では低温成分の磁化方向を明らかにするために、この地域の赤色チャートの磁化を測定した。 測定の結果、低温成分のうち200〜400℃で消磁されるB成分の磁化はこの地域の摺曲構造に関わらず西向き上向きで摺曲以降に磁化したことが分かった。平均方位はDm=-67°、Im=-41°であった。この磁化方位からB成分は西南日本の回転以前であると考えられる。これらとブロッキング温度を勘案すれば、B成分は、美濃帯の構造摺曲形成後、西南日本回転以前に、200℃程度の温度に長期間さらされて獲得されたTVRMとするのが妥当と思われる。200℃以下のA成分の方位は現在の地球磁場の周辺に分布しており、VRMと考えて問題はない。 また、同地域のチャート中からHorietal.(1993)が報告している磁性球粒がこれらの磁化の担体となりうるか、磁性球粒を取り出して磁気履歴を測定した。その結果、磁性球粒は抗磁力の非常に小さい磁鉄鉱の多磁区粒子であることが分かり。A成分以外の担体にはならないことが明かとなった。
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