炭素質コンドライト中の有機物をその場観察することを目的として、いくつかの実験をおこなった。多環芳香族炭化水素(PAH)は蛍光物質であり、蛍光顕微鏡によって限石中での存在をその場観察することができる。5種類の異なるPAH試薬をカンラン石粉末に混合して隕石模擬物質をつくり、ナイフの刃で破断した面を蛍光顕微鏡を用いて観察した。用いたPAHのうちで、とくにフルオランテンについては、隕石中と同レベルの濃度(約30ppm)でも、この方法により観察できることを確認した。実際の隕石の観察では、PAHの固定や組織との対応を行ないやすくするため、隕石を樹脂埋めした方がよい。このため、実験に適する樹脂を探したが、蛍光をほとんど持たずまたPHAを溶解しないような、適切な樹脂を見い出すことはできなかった。実際の隕石の観察にはMurchison隕石を用いた。樹脂埋めをすることができなかったので、清掃したダイアモンドカッターを用いて切断し、その切断面を蛍光顕微鏡を用いて観察した。 数〜数100μmの大きさの蛍光物質がいくつか観察できたが、再現性がなく(長時間放置後再び観察すると位置や形態が変化する)、PAHを固定できなかったか、あるいは汚染物質を観察したものと思われる。 一方、炭酸塩鉱物に伴うPAHの発見などにより過去の生命活動が指摘されている火星隕石ALH84001について、その3次元構造を明かにするために、高分解能X線CT装置による観察をおこなった。これにより、クローマイトと斜長石ガラスが篭状構造を作っていることがわかった。炭酸塩に対応すると考えられる部分もCT像において認められるが、薄片観察との対比をおこなっていない現時点では断言できない。炭酸塩鉱物は通常斜長石ガラスに伴って存在するので、炭酸塩鉱物も同様に篭状構造を作っているものと推測できる。
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