本年度においては、自然放出を促す輻射場を制御するための空間モード選択法について、二つの手法により検討を行った。 ひとつは従来行ってきたレーザーによる有機分子の注入法を応用して、高分子フィルム表面に回折格子状のパターンを形成し、これを光の波長よりも大きな共振器内に適当な角度で設置することにより、波長に応じた特定方向に射出される光のみを選択する技法である。これを実現するためには、光を放出する分子系が可視領域の回折格子を作れるぐらいの空間スケール(サブマイクロメートル)で作成可能でなければならない。このため、レーザー注入ビームを二つに分けてから一定の角度で交わらせて干渉させることにより、蛍光を発する有機分子を縞状に高分子フィルム上に注入固定し、回折格子の作成に成功した。 もうひとつの手法として、光の波長オーダーの極短キャビティを用い、空間モードを制御するための光学系の設計に着手し、ピエゾドライバーと全反射プリズムを用いたキャビティ制御と検出光学系の試作に取り掛かった。キャビティ長は10ナノメートルの精度で制御可能であり、キャビティ内の励起状態は光ガイド状形態を形成する2枚の凸面鏡内を伝播するプローブ光を用いる光学系を組み立てている。この光学系が機能しない場合には、二枚のサファイア製全反射プリズムをキャビティ形成鏡とし、近接場光をプローブとする光学系で代替する。今後、これらの光学系を用いてピコ秒ポンプープローブ過渡吸収測定を行い、キャビティ内の有機分子の励起状態ダイナミクスと空間モードとの関連について調べる。
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